この映画から受けた感動を一人でも多くの人に伝えたい ![pencil icon](img/img_pencil.png)
見城慶和
(元夜間中学校教師・えんぴつの会)
*山田洋次監督の映画『学校』主人公のモデルとなられた方でもあります。
私は長いこと夜間中学校に勤務してきたので、通信制の中学校が東京の一橋中学校にあるということは知っていました。 設置に関する法的な規定のない夜間中学校とちがって、通信制中学は学校教育法の105条に基づいて運営されているということも知ってはいました。 でもそこで、どのような人たちが、どのように学んでいるかというようなことは全く知りませんでした。 そんな私にとって、この映画との出会いは感動の一言につきるものでした。
まず驚かされたのは、映画の中に私が知っている宮城正吉さんが生徒さんの一人として登場していたことでした。
もう十五年も前になりますが、定年後の私が嘱託教員として勤務していた墨田区立文花中学校の夜間学級で出会ったのが、私といくつも年の変わらない宮城さんでした。
夜間中学に入学したものの、残業仕事などで、宮城さんの夜間中学校生活は長くは続かなかったのでした。
その宮城さんが、七十歳もとうに超えた今、月に二回ほど昼の学校が休みの土日に行われる一橋中学のスクーリングで学んでいたのです。
通信制ですから、こうした授業を除けば、あとは自分でテキストを手掛かりにレポートを書き、それを提出して学習を進めます。
ここに集う学習者は勿論のことですが、先生たちも授業にかける意気込みや熱意は大変なものがあります。
国語、英語、理科、社会、体育など映画に出てくる授業がどれも惚れぼれするほど素敵です。
先生たちの学習者に対する尊敬の念が伝わり、生徒と教師が教科の内容を深く共感していく様子なども心地よく伝わってきます。
学校風景から離れると、映画は一人一人の学習者の姿を追います。
なぜ学齢期に中学校へ行けなかったのか、またどうしてこの年齢になっても学びたいのか、仲間や家族とのかかわりの中でどう学びを求め続けてきたのか、などを、それぞれの生活場面の中で語ります。
語られる言葉は勿論ですが、語る顔や全身の表情にも強く心を打たれます。
この映画は「学ぶとは、どういうことか」、「学校とは、どういう場であるべきか」を根底から問いかけています。
いま国会では、戦争や貧困、不登校などの事情で義務教育を十分に受けられなかった人たちの学びを拡充する「教育機会拡充法案」が審議されています。
太田直子監督が、定時制高校の教育に光を当てた映画『月明かりの下で』(2,010年)に続いて、この度、ドキュメンタリー映画『まなぶ…通信制中学60年の空白を越えて…』を世に問う意義は、計り知れなく大きなものがあると確信します。
※夜間中学校の同僚であった澤井留里さんから、この映画に寄せる素敵な感想メールが届いたので、それを下敷きにこの一文を書かせていただきました。